
「兄弟(きょうだい)!わっしょい!」
腹の底から響く掛け声とともに、白い布をまとった男たちの熱気が、晩秋の防府の夜を焦がします。
山口県防府市にある日本最初の天満宮・防府天満宮。ここで毎年11月の第4土曜日に行われる**「御神幸祭(ごじんこうさい)」は、通称「裸坊祭(はだかぼうまつり)」と呼ばれ、西日本屈指の荒祭りとして知られています。
2026年は11月28日(土)**に開催予定。
菅原道真公の「無実の罪」を晴らすために始まったとされる、1000年以上の歴史を持つ壮大なドラマと、約5,000人の男たちが織りなす熱狂の夜をご紹介します。
1. 5000人の白装束!圧巻の「裸坊行列」
この祭りの最大の衝撃は、その視覚的な迫力です。
寒空の下、上半身裸に白晒(さらし)を巻き、白装束をまとった男たち(裸坊)が、防府の街を埋め尽くします。
- 500kgの御網代(おあじろ):彼らが担ぐのは、道真公が乗った輿(こし)である重さ約500kgの「御網代輿」。これを担いで、拝殿から続く急な石段を滑り降りるシーン(御発輦)は、怪我人も出るほどの激しさで、祭りのハイライトの一つです。
- 兄弟わっしょい:彼らの合言葉は「兄弟わっしょい」。身分や職業に関係なく、天神様の下では皆が「兄弟」であるという意味が込められています。この連帯感が、祭りの熱気を最高潮に押し上げます。
2. 千年の歴史が伝える「無実の証明」
なぜこれほど激しい祭りが行われるのでしょうか。その背景には、学問の神様・菅原道真公の悲しい歴史があります。
- 無実の知らせ:平安時代、無実の罪で太宰府へ左遷された道真公。その死後、無実が証明され、その霊を慰めるために勅使が遣わされたこと(勅使降祭)が祭りの起源です。つまり、この祭りは**「道真公、あなたの無実は証明されましたよ!」**と、神様に伝え、慰めるための喜びと感謝の儀式なのです。
- 庶民の祈り:江戸時代後期、それまで神職や特定の家柄しか参加できなかった祭りに、庶民が「潔斎(冷水を浴びて身を清める)」することで参加を許されたのが「裸坊」の始まりです。
3. クライマックスは「勝間の浦」へ
行列は防府天満宮を出発し、約2.5km離れた**「勝間の浦(かつまのうら)」**にある御旅所を目指します。
ここはかつて、道真公が太宰府へ向かう途中に立ち寄り、船を休めた場所とされています。
厳かな神事「御旅所祭」が執り行われた後、再び天満宮へと戻る「還幸(かんこう)」まで、街は熱気に包まれ続けます。
Editor’s Note: 防寒と観覧のコツ
開催は11月下旬の夜。山口県の夜は冷え込みます。見学の際はダウンジャケットやマフラーなど、真冬並みの防寒対策が必要です。また、裸坊たちが通る際は大変な混雑と押し合いになりますので、安全な場所を確保してご観覧ください。
基本情報 (Access & Info)
| 項目 | 詳細 |
| 行事名 | 防府天満宮 御神幸祭(裸坊祭) |
| 開催日 | 2026年11月28日(土) ※毎年11月第4土曜日 |
| 開催時間 | 18:00頃~21:00頃(御発輦~御旅所着) |
| 開催場所 | 防府天満宮境内 および 防府市内(勝間の浦 御旅所) |
| 住所 | 山口県防府市松崎町14-1 |
| 重要指定 | 国の選択無形民俗文化財 |
| アクセス | JR山陽本線「防府駅」から徒歩約15分 |
| 駐車場 | 周辺にあり(競輪場周辺など臨時Pが開設される場合あり) ※大変混雑するため公共交通機関の利用を強く推奨 |
| お問い合わせ | 0835-23-7700(防府天満宮) |
| 公式サイト | 防府天満宮 公式ページ |
よくある質問 (FAQ)
Q. 雨天の場合はどうなりますか?
雨天決行です。男たちの熱気で雨さえも蒸発しそうな勢いで行われますが、見学者は雨具(カッパ推奨)の準備が必要です。
Q. 「裸坊」として参加するには?
一般の方も参加可能ですが、事前の申し込みが必要です(15歳以上の健康な男性)。衣装の準備や潔斎(お清め)の作法などがあるため、詳細は数ヶ月前に防府天満宮へお問い合わせください。
Q. 写真撮影のベストスポットは?
出発直後の「大石段」の下や、商店街を練り歩くエリアが迫力ある写真を撮りやすいです。ただし、フラッシュ撮影や三脚の使用は禁止されているエリア・時間帯があるため、現地の係員の指示に従ってください。
【まとめ】
5000人の「兄弟」たちが叫び、走り、神輿を担ぐ。
1000年続く道真公への想いが爆発する一夜は、一度見れば忘れられない衝撃を与えてくれます。
2026年の晩秋は、防府で魂を揺さぶる「わっしょい」を聞きに行きませんか?